慶應義塾湘南藤沢中・高等部 部長 大森先生からのメッセージ
慶應義塾湘南藤沢中・高等部を訪問してきました。
少々読みづらい箇所もあるかと思いますが、言葉の奥に含まれた意味までお伝えするため、
会話そのままの文章としました。
話し手:慶應義塾湘南藤沢中・高等部部長 大森正仁先生(左)
聞き手:学習教室キートス塾長 遠藤佳映(右)
2008年6月12日 慶應義塾湘南藤沢中・高等部応接室にて
第1部 慶應義塾湘南藤沢中・高等部ってどんな学校?
「国際化」・「情報化」の下でのSFC中高らしさ
遠藤 まず始めに、慶應義塾湘南藤沢中等部・高等部(以下、SFC中高)の、他の私立中学・高校にない魅力についてお聞かせください。
大森 やはり慶應義塾の一貫校であり、慶應義塾大学に進学できるという所ではないでしょうか。
遠藤 単純明快なお言葉ありがとうございます。では、その慶應義塾の一貫校の中で、SFC中高の役割というのはどういった事にあるのでしょうか。
大森 まず、他の慶應義塾の一貫校、中学で言えば、普通部・三田中等部とは違う形で教育をしていきたいというのが念頭にあります。最終的には大学で一緒になるわけですが、そこで普通部や三田中等部からの生徒達とはやっぱり違うSFC中高らしさというのが出てくるようにしたいということですね。それに向けて、今様々な形で取り組んでいるのですが、特に進めているのは「国際化」と「情報化」です。これからは国際的な場面も多くなり、情報化社会もますます進んでいくことでしょう。そんな現代社会において、そういった分野に積極的に関わっていくような生徒を育てたいと思っています。
遠藤 慶應義塾中等教育三校の中でも、特にSFC中高は「英語教育」・「IT教育」には力を入れていますね。やはりそのような点がSFC中高の大きな魅力であるようにも思います。では逆に、SFC中高を受験してくる生徒達に期待することはどのようなことでしょうか。
大森 そうですね。まずSFC中高では、中等部に入学してきた生徒たちは全員高等部に進んで、大学に進学するということになります。他の附属校がある大学でも同じなのだと思いますが、一つにはやはり、「慶應義塾は福澤精神に基づく」ということが挙げられると思います。おそらくほとんどの受験生たちにはその「福澤精神」というものが始めは分からないと思います。遠藤さんや吉田君にはよく理解してもらえるかとも思うのですが、慶應義塾ではそれを「塾風」と呼びます。生徒達にはその「塾風」を理解して欲しい。つまりはその塾風を身につけるために、もちろんそれはSFC中高なりの塾風ということになりますが、そういった形で慶應義塾に学ぶ。あるいは、SFC中高に学ぶ。自分で「こういうことのためにSFC中高に学びたい」、「こういうことのために慶應義塾で学びたい」というように考えて欲しいなと思っています。
遠藤 なるほど。少し個人的な話になってしまいますが、私自身、大学になりますがSFCの総合政策学部のAO入試に挑戦した経験があります。その出願の願書作成の段階で、かなりの分量の志望動機を書かなければならなかったことを記憶しています。その願書を書くのにもなかなか苦労したことが思い出されますが、今お話があったように、このSFCという環境をどのように使って、どういうことをしてきたいのかということを考えさせられたように思います。やはり、それこそがSFC中高が求めている人材・育てたい人材ということになるのですね。
大森 そうですね、「問題意識」というのはどんな場でも大切であることのように思っています。
慶應義塾の生徒として
遠藤 私どもの学習教室キートスという塾が小田急線沿いにあることも関係して、慶應義塾中等教育三校の中でもSFC中高を志願されている生徒が多くなっています。保護者の方々からも関心が高い男女共学校ですが、SFC中高の生徒像、あるいは「男子像」・「女子像」というものがありましたらお聞かせください。
大森 はい、まず始めに、SFC中高は男子と女子を分けて考えるということをしていません。その意味では普通部が男子校ですし、三田中等部では男女比率が2:1という風に女子が少なくなっていますが、SFC中高は男女がほぼ半々です。世の中の比率に一致しているのがSFC中高なのかなとも思いますが、そうした環境で、特に「男子はこうあれ」とか、「女子はこうあれ」とかといったことではなくて、やはり福澤先生の言葉通り、「男女平等」です。ただ、当時の世界でそれを言うのはすごく大変でしたが、そうではない現代において、「男女平等」っていうのはどういう意味なのだろうかと考える必要もあると思います。男子であれ女子であれ、それぞれの生徒、中学一年生と高校三年生では、求められるものがそれぞれで違いますし、生徒が求めるもの、保護者が求めるものも違うと思います。こうした側面からも、SFC中高側としての男子像・女子像といった型のようなものはありません。ただ、そうした中で、「慶應義塾の生徒だ」というようなものが自然と出てくるといいなという思いでいます。
遠藤 自由な校風のなかにも「SFC中高らしい塾風」ということですね。よく分かりました。では、受験生の保護者に何かメッセージはありますでしょうか。
大森 はい。おそらく私立の中学受験ということであれば、他の学校を受験されるご家庭も非常に多いと思います。その中で、ご縁があって慶應義塾に入学なさるというのを非常に嬉しいことだと思っています。その上で、是非保護者の方々には慶應義塾というのはどういう学校で、生徒たちにどういうことを求め、どういうことをさせる学校なのかといったことを色んなところでお知りになって、よくお考えの上、ご理解していただいて、SFC中高を選んでいただきたいと思っています。ですから、選ぶ段階ではいくつかの学校のうちの一つなのかもしれませんが、その一つになったときのことを考えて、特に慶應義塾は大学までありますから、SFC中高はこういう学校、慶應義塾はこういうところだっていうのをよくご理解いただいた上で、お子様に受験させて欲しいと思っています。
遠藤 そうですね、我々も学習塾として、生徒・保護者に確かな情報を提供していかなければならない責務を感じています。ありがとうございました。
余裕を残した受験生に
遠藤 学習塾の立場からお尋ねしたいのですが、SFC中高合格のために、「通塾」(小学校以外での学習)というものが、どの程度の割合を占めるとお考えか、お聞かせいただけたらと思うのですが。
大森 基本的には小学校で学んでいる学習範囲でしか受験問題として出題出来ませんので、通塾がどの程度必要かということは分かりません。やはり、それは個人差があるのではないでしょうか。その意味では、通塾の必要がある子もいるでしょうし、それほど必要ではない子もいるでしょうが、それは遠藤さんの方がいろいろ御存知かとも思います。やはり個人差が一番多いのもこの時期かなと思いますし、それぞれの子の能力には違いがあるでしょうから。ただ、SFC中高に入学してくる子たちを見ていまして、やっぱり塾通いで疲れてしまって、何のために中学に、何のためにSFC中高に入ったのか、そして将来どういう人間になりたくて、何をやりたくて、っていうことが考えられなくなってしまった子達を見るのは残念なことです。
遠藤 おっしゃる通りかもしれません。これは一学習塾の講師として責任を感じる所でもあるのですが、勉強そのものを(中学)受験のためと考えてしまっている子が多くなっています。私どもの塾では、入塾時に生徒たちに面接をする機会があるのですが、「中学を合格したら、何をしたいですか?」という問いかけに答えられない子たちがあまりにも多いのです。中学でやりたいことなんて何でもいいのではないかとも思うのですが、多いのが「遊びたい」という答え。立場上、ジレンマでもあります。
大森 そうですね。小学6年生に勉強しろって言えば、大抵の子たちがいくらでもやると思います。でも、それで疲れ果ててしまって、中学1年生になって「もういい」っていう風に勉強したくなくなってしまうのが一番困る。やっぱり中学に入って、新しい環境で「よし、勉強するぞ」・「英語やろう」というように、ある意味での余裕を持った子に入学してもらいたいと思っています。
第2部 SFC中高部長の大森先生ってどんな人?
「慶應義塾大学法学部教授」・「慶應義塾大学法科大学院教授」・「慶應義塾湘南藤沢中等部・高等部部長」という肩書き
遠藤 これは私が勉強不足だったことであり、今回こうして慶應義塾のインタビューをさせていただく中で驚いたことでもあったのですが、SFC中高の大森部長のみならず、慶應義塾の一貫校の部長・校長の先生方には、大学教授と兼任されている方が多いようですね。大森部長も法学部・法科大学院の教授でいらっしゃいますが、普通部の能條部長は普通部の先生でいらっしゃいますね。これもまた慶應義塾という学校のなんらかのポイントなのでしょうか。
大森 大学教授とその学校の先生とで、どちらが多いかと言うと場合によって違いますね。幼稚舎の加藤舎長も幼稚舎の先生ですし、女子高の梅岡先生も女子高の先生ですから、そういう意味ではバラバラですね。いずれにせよ、適材適所ということなのではないでしょうか。通常の公立校の校長先生とは全然違いますね。
遠藤 大森部長はSFC中高の部長になられる前から大学教授だったのですか。
大森 はい。慶應義塾大学には通信教育部というのがありまして、文学部と経済学部と法学部に、通学課程とその通信教育課程があります。あまり多くの学生には知られていないのですが。その通信教育の学生が1万人ぐらいいまして、年齢の幅は実に広く、一番若いと18歳ぐらいから、私がいた時で最高75歳の生徒までいました。4年間ぐらいそういう学生たちと付き合ってきました。それが終わって少しほっとしていたところで、しばらくはそういう仕事はなかったのですが、法科大学院が始まりまして、そちらの方にも行っています。私は法学部と法科大学院を兼任しているんですが、そんな折にSFC中高の部長をやらないかというお話をもらいまして、今に至るといった感じです。
遠藤 そうだったんですか。SFC中高の部長に就任されて、何かお感じになられたことはありましたか。
大森 やはり、そのお話をもらった時は一瞬驚きましたね。でも、部長になってみて思うのは、やっぱり生徒が可愛い。我が校のモットーに、吉田君は多分知っていると思いますが、知性と感性と体力を兼ね備えた人間になって欲しいということがあります。知性とは勉強すること。体力とは体育・クラブを通じて培うもの。そして感性は音楽ですとかクラブ活動ですとか、同じクラスの仲間たちなどを通じて色んなことを感じて欲しいということです。
遠藤 つまりは、バランスのとれた人間になって欲しいと。
大森 はい。高校3年生になると見かけは結構大きくて、大人な面も多いのですが、中学から高校までの一貫教育で、やっぱりある意味では少し子供っぽいところもあるのかなと感じることがあります。吉田君も感じたかもしれないけれど、大学や通信教育で指導したことのある眼からはすごく新鮮で、自分自身にもそういう時代があったんだなあと思うことがあります。ですが、やはり中学時代・高校時代のことを考えると、SFC中高の生徒は環境の面から見ても恵まれているように思いますね。
遠藤 そうですね。こんなに自然に囲まれた環境で、ゆったりとした校舎で、中高6年間を過ごすことの出来る都会っ子たちを本当に羨ましく思います。
感動の一冊
遠藤 最後になりますが、大森先生の愛読書を教えていただけないでしょうか。
大森 国際法(大森部長の専門分野)の本を挙げても分からないでしょうから、最近読んだ本で感動的だったものをご紹介しますね。池田潔先生の「自由と規律」という本です。岩波新書です。イギリスのパブリックスクールであったことをもとに書かれていて、まあ男子校の話ですが、SFC中高の目指すべき方向として、やはりイギリスのパブリックスクールというものが一つあるのかなと再認識しました。その上で、国際化という面からも、イギリスのイートンと提携しようと思っています。イートンは男子だけの学校ですが。それから、もう一つパブリックスクールとしてケンブリッジにある非常に優秀なパースの女学院と提携して学生を送り出そうと考えています。パースは女子だけの高校ですね。他にも、アジアの方に少し目を向けて、今後進めようと思っている所です。いずれにしても、SFC中高が考えていることは、慶應義塾の独立自尊ですとか、福澤先生の考えを体得出来るような生徒をここから早く送り出したいということです。その上でやはり一つの目標になるのがイギリスのパブリックスクールなのかなと思っています。それを体験として書かれている、池田先生の「自由と規律」という本ですが、是非ご一読を。
遠藤 やはりSFC中高という学校は規模が違うようですね。常に日本教育の国際化の面でも最先端を走り続けているような気がします。「自由と規律」ですね。分かりました。題名からしても興味をそそられる感じですが、早速拝読させていただきます。今日はお忙しい中、貴重なお時間をありがとうございました。大森先生の益々のご活躍とSFC中高の更なる発展をお祈りしています。
お得情報 慶應義塾湘南藤沢中・高等部の入学試験について
大森部長との十分な対談時間が取れなかったため、主事の相川先生に入試に関するお話をお聞かせいただきました。
慶應義塾湘南藤沢中等部・高等部(以下、SFC中高)入試の考え方
まず、本校が実施している入学試験は、一般に受験塾で身に付けるような「受験テクニック」だけで合格出来るものではないと考えています。例えば国語の記述問題では、受験生の持つ感性や創造力を問うようなものも出題しています。
さらに、2次試験の面接においても、受験塾の指導などによる「判で押したような模範解答」を答える受験生に、必ずしも良い点数がつくわけではありません。むしろ本校としては、たとえ荒削りであったとしても「その子にしかない個性が光る生徒」・「一緒に6年間(または3年間)をその子と過ごしてみたいと思わせてくれるような魅力を備えている生徒」を面接によって発掘したいと考えています。
帰国子女の生徒達に期待すること・外国語作文の狙い
本校には「帰国生」の他に、「一般生」・「地域調整枠の生徒」・「幼稚舎・普通部・三田中等部からの進学者」といった、さまざまな背景を持った生徒が混在しています。そうした意味でも、帰国生のみならず生徒諸君には、異なる文化的背景を持った人たちを理解し、相手の持つ価値観を尊重して、自分の持っていない点については素直に学べる人間になってもらいたいということが本校の教育目標の一つとして挙げられます。その中でも、帰国生たちに期待していることは「国際性」・「リーダーシップ」・「新しいことへのチャレンジ精神」といったものです。
外国語作文についてですが、本校の目指す外国語教育として、「外国語が自由に話せる」というレベルではなく「外国語を自由に用いることによって、将来その生徒がどのように国際貢献できるか」という大きなテーマがあります。受験生に外国語作文を課しているのも、単に「語学力」だけを見ているのではなく、その受験生が「その外国語によって、どのような思考ができるか」を測ろうという狙いがあります。