2023年1月31日

2023年1月31日

さて、1月31日となりました。
時が経つのは恐ろしく早いものです。
歳をとるはずです…。
いよいよ明日から中学入試本番となります。
試験そのものはそれこそあっという間に終わってしまいます。
結果もあっという間に出てしまいます。
その「1日」に向けて準備して来た時間は途方もないほど長いものであるにも関わらず。
いえ、だからこそ入試というものは尊いものなのかもしれません。

今年も色々ありました。
本当に色んなことがありました。
例によって私はまた、そんな一つ一つのエピソードを忘れてしまうのだろうと嘆いてもしまいますが、
記憶がまだ新しいうちに今年の受験生たちについて少し綴っておきたいと思います。

今年の受験生たちには例年とは少し違った趣が見られました。
それはあまり他の子とベタベタ仲良くしないという所です。
これだけ連日長時間同じ空間にいれば、自然と話し相手を見つけ、
休憩中や授業後など楽しくして過ごしたりもするものですが、
今年は少し違うようにも思えました。
一人一人は元気でお喋り好きな子たちばかりです。
もちろん仲良くしている子も一部にはいましたが、
基本彼らは休憩中も一人で静かにじっとしていることが多かったように思います。
かと言って教室内が殺伐としている訳では決してなく、
お互いがお互いの存在というものを認め、尊重しながらも、
「一人でいられること」に強かったのかもしれません。
そんな彼らにはやはり「読書」が休憩中最大の遊び相手だったのかもしれません。
どこかで読んだことがあるような気がします。
「孤独を愛せることが最大の教養である」と。

決して彼らは無駄に大人びていたり、悟ったかのように斜に構えていたりする訳ではありません。
私との授業中や「アイスタイム(節目節目でのご褒美アイスです)」では、
やはり小学生らしい子供らしさを見せてもくれました。
授業中、教室を出てみんなで一緒に月食を観に行ったこともありました。
天体の神秘に「うわー」っと思わず声を上げる子供たちを見て、
立派な器具など教室にはありませんが、
日頃時間に追われる生活をしている彼らと、
いつまでもぼーっと空を見上げ続けていられたらなと感じさせられた瞬間でもありました。
中学受験そのものが早熟な子を求めている側面もあると思いますが、
放っておいても子供たちは社交性や感性というものもちゃんと身に付けて行くものなのでしょう。
自分のスマホでパシャパシャと月食を撮影している姿を見るにつけ「現代っ子」だなとも思えましたが、
きっとその写真をおうちでお父さんお母さんと一緒に見るのだろうなと微笑ましくも感じました。

勉強面でのことも少し触れておきたいと思います。
昔からキートスの子たちはそうなのですが、あまり執拗に私に質問をして来ません。
特別私が「質問お断り」などを宣言している訳では決してないのですが、
本当に分からない状況になるまでは安易に持って来ません。
それはきっと私に「その状態じゃあまだ教えられない」と言われた経験があるからかもしれません。
私が「ヒントあげようか?」と声をかけても、
「いや、最悪これは書き出せば何とかなるから、もう少し自分で考える」と言ってなかなか頼って来ません。
中にはじーっと鉛筆を持ったまま、固まっている子もいますが、
我ながら、なかなか良い学習環境だなと感心させられます。

特に算数や理科といった理系科目では、「教えても意味がない」ような局面が多く存在します。
それが「いつ・どんな時なのか」を言語化するのも難しいのですが、
私にはその子の表情とその問題用紙の余白の状態を見れば明確に判断が付きます。
特に、ひと通り基本的な学習を済ませた子たちにとって、
まずは自分で手を動かしてみること、
問題文から読み取れるあらゆる条件を整理してみること、
図やダイヤグラムなどを描いてみること、
時には法則・規則性が見つかるまで書き出してみること、
そして何より、「解こうとする」こと。
そんな経験が理系科目では大きな意義を持ちます。
そうした中でようやく正解までの糸口が見えることもあれば、
それでもなかなか見えてこないこともあります。
その絶妙なタイミングでこそ、私からのヒント・アドバイスが意味を持ちます。
そんな私も昔は、それこそ一語一句、一つ一つ、式や図などを教え込もうとしていた時期もありました。
それは私自身が「限られた時間内に仕上げなくては」といった無駄な責任感のようなものを抱いていたからなのかもしれません。
そうすることがかえって子供たちの「成長」を遅らせ、時間がかかる結果となってしまうにも関わらずです。
大人が大人の都合で勝手に決めた「授業時間」など、子供たちにとっては無意味であることの方が多いものです。

まずはひと通りの基本概念を説明すること。
そして、必要な時に必要なだけ、その子たちの成長に必要な学習素材を与えること。
適切な時に適切なだけ、次への一歩のためのヒントを与えること。
黙って「×」をつけること。
「〇」は出来るだけ大きくはっきりつけること。
「その時」まで待ってあげること。
学習に習慣とリズムをつけてあげること。
目先の目標設定をし、アイスやジュースを使ってでもモチベーションアップを図ること。
決して無意味に他の子と競わせないこと。
私も隣りで一緒に同じ時間内で同じテストに取り組み、見事間違えること…。
子供たちの前では極力解説を読まず、私も解けない問題に一緒に頭を抱えること…。

これらが日々の主な私の業務となります。
後半二つは私自身の不甲斐なさも感じてしまいますが、
その昔、私にとって塾の先生は解けない問題など無いかのような、完璧で崇高な存在でもありました。
私もそんな存在でありたいと思ったこともありましたが、今はそれよりも、
早く私を踏み台にして超えて行って欲しい、飛び立って行って欲しい、
といった想いの方が強いかもしれません。
決してわざと間違えている訳ではないのですが…、
そんな時はやはりひと言。
「アホだった、馬鹿なことをしてしまった」と。
一人くらい、そんな塾の先生が、そんな大人がいてもいいのではないかと、
今はそう思っています。
なにより、私自身が「完璧」とは程遠い人間ですから…。

さてさて、今年もまた長くなって来ました。
この日記を読むことすら無いかもしれない中学受験生たちに向けて、最後のエールを送りたいと思います。


受験生諸君、どうかな?緊張してるかな?
緊張していて当たり前、それでいい。
一生懸命に生きている何よりの証です。
むしろ緊張してください。

朝、早起きを継続して頑張った子、自分の弱さを思い知った日もある子、
毎日自分から机に向かった子、誘惑に負けてしまった日もある子、
みんな正解です。
そこに決して答えやゴールなんかは無くて、
その一つ一つの積み重ねにこそ意味があるのではないかと僕は思っています。
失敗も含めてね。
ダメかどうか、無理かどうかなんて、やってみないと分からない。

どの子も例外なく、驚くほど問題を解けるようになってくれました。
お世辞なんかじゃなく、ほんとにね。
今年の6年生もまた、みんな本当に立派な6年生だった。
結果は自ずとついて来る。
それが君たちにとって良い結果であると良いけれど、もしかしたらそうでない場合もあるかもしれない。
それはやっぱり、やってみないと分からない。
模試の結果なんて、ほんとに当てにならないんだから。
この世に絶対なんてない。

でも、そんな中にただ一つ「確実」なものがあるとすれば、
それはやっぱり「今日まで頑張り抜いたこと」だと思う。
逃げ出したいことも投げ出したいこともあったと思う。
受験勉強、大変だったね。
我慢したものもたくさんあったと思う。
ほんとによく頑張った。
今日まで頑張れた自分をどうか褒めてやってください。

そして最後に。
自分の周りのありとあらゆるものに感謝してください。
まずはパパ・ママだね。
そしてお兄ちゃんお姉ちゃん、妹弟、おじいちゃんおばあちゃん、みんなだね。
ずっと支え続けてくれたはず。
たとえ喧嘩することはあっても、ずっと味方でいてくれたはずです。
どうか自分一人でここまで頑張ったなどと思わないでください。
自分のせいにすることこそあれ、周りの人のせいにすることなどあるはずもない。
どんな時も、感謝の心だけは決して忘れないでください。

さあ、本番だよ。
思う存分楽しんでおいで!
この数日間に限っては、「正解して当たり前」なんて問題は一問もない。
解ける喜びを存分に味わいながら、一問一問を噛みしめておいで。
無駄に焦る必要はない、時間はたっぷりあるから。
見直しは必ずすること。
勘違いして問題を読み間違えてたりすることがあるから。
賢い子ほど「軌道修正」できるものです。
国語・理科・社会もだよ。
算数なら、検算だったり、違う解き方だったりも試してみること。
その代わり、最初の答えを直す時は慎重に。
「勘」は大抵最初の答えの方が正解です。
あと、僕がよくやってしまうことでもあるけど、
解いていて手が止まってしまった時こそ、問題文に戻るといい。
見落としていたり、使っていない条件が見つかったりするものだから。
あとは「いつも通り」。
条件を書く。図を描く。式にする。
当たり前のことを当たり前のようにするだけ。
どうしても解けないようなら、後回しで構わない。
その代わり、後で必ず戻って来ること。
最後の1分1秒まで諦めないこと。
君たちに解けない問題なんて、もうそんなに無いはずだから。
自分を信じて。

許されることなら、試験時間中、君たち一人一人の横に座っていてあげたいけど、
僕の代わりに、豆猫持って行ってやってね。
不思議な力があるとかないとか、やっぱりあるとか…。
君たちと出会えた奇跡に感謝しています。
今日まで楽しかったよ。
本当にありがとう。
また会おうね。
健闘を心から祈っています。

2023年(令和5年)1月31日
学習教室キートス
遠藤佳映