彼女が遺したもの

彼女が遺したもの

キートスで彼女のことを知っている生徒も今では少なくなりました。
それだけ時間が経ったということなのかもしれません。
かつては、キートスのマスコットキャラクターとして、
そして、キートスの名物講師として、
教室の張り詰めた空気を和やかなものにしてくれたものでした。

9月16日 pm 0:10
私の大切な存在がこの世を去りました。
享年11(歳)。
その世界の平均寿命から言っても、少し早かったかなとも思えます。
極めて私的な内容の日記となってしまいますが、
今夜だけは彼女との日々に耽りたいと思います。
申し訳ありません。

まずは人生、いや、おかしいな…、お疲れ様でした。
どれだけ撫でてみても、いつものようには私の手を舐めようとしないこと。
あなたはまるで、ぬいぐるみそのもののようですよ。
そんな私は今、ただただ無念でならないこと。

一緒に色んな所に行きましたね。
どこに行っても、沢山の人から可愛がられ、
その都度周囲に愛想をふりまくあなたが、
私の自慢でもあったこと。

甘え上手で、それでいて、そっと私に寄り添ってくるあなたは、
もしかすると、私の最大の支えであったのかもしれないこと。

普段寡黙で、決して本心を明かさないあなたと、
腹を割って話すという夢は叶いませんでしたが、
そんなあなたにずっと聞いてみたかったことがあります。
ちょっとだけその答えを聞きたくない自分もいたりして、
聞くのが怖い気もしていること。

あなたは我が家の一員で幸せでしたか。

過去に一度だけありましたね。
あなたが玄関から飛び出して行ってしまったこと。
近所を真昼間から大声で叫びながら、走り回ったこと。
私の頭の中は完全に真っ白だったこと。
あなたを見つけたとき、抱き上げて叱りながらも、
もう二度と離さないと心に誓ったこと。

「後悔はしない」というのが私の信条ですが、
あなたとの時間に関しては後悔しかないということ。
これからももっと沢山遊びたかったです。
これからももっと沢山おやつをあげたかったです。
これからももっと色んな場所に行きたかったです。

今日のあなたからもちゃんとあなたの匂いがすること。
今日のあなたが硬く冷たいということ。

今日は正直に言って、仕事にならないかなと思って家を出ました。
でも、あなたに叱られるといけないから、
今日も一日精一杯頑張ったこと。
今、教室でこの日記を書きながら、涙が止まらないこと。
それでも、きっとあなたは帰って来ないということ。

私から、かけがえのないことが消えるということ。
寂しいとか哀しいとかじゃなくて、
ただ無念としか表現出来ないということ。

今の我が家はあなたにはにぎやか過ぎたかもしれませんね。
それをただただ申し訳なく思っていること。

この数日、特にしんどかったですね。
今日のこのにわか雨が、
あなたの涙に思えてならないこと。
どうか、ゆっくりしてください。

「こと」という言葉を聞くたびに、
あなたを思い出してしまいそうだということ。
あなたはこれからも我が家の一員であり続けます。
私たちにとってのことはあなただけです。

あなたとの日々は楽しいものばかりでした。
ありがとうございました。
さようなら、こと。